
最近のニュースでは、「アメリカ、トランプ大統領がTPPを離脱。」「TPPは終了した!」といった報道をよく見ます。
今回は、TPPが再度話題になっている現在だからこそ、TPPと、その農業への影響について解説したいと思います。
また、トランプ大統領が就任したこれから先、TPPはどうなるのか、農ログの考え方も含めて紹介します。
長くなりそうなので、2回に分けて記事を書きたいと思います。
今回の記事ではまず第1弾として、TPPの内容と農業への影響について説明します。
「TPPという名前は知ってるけど、よく分からない」という農家さんも多いのではないでしょうか?
ここではそのような農家さんに向けて、できるだけ簡単に、TPPについて解説しますので、ぜひ読んでみて下さい。
トランプ大統領就任後のTPPの状況や、今後の予測は、「トランプ就任でTPPはどうなる?TPPの今後と農業への影響」で説明しています。
今回の記事は、TPPの農業についての内容に絞って解説します。自動車等も含めたTPP全体を知りたい人は、別途書籍やインターネットで調べてみて下さい。
1.そもそもTPPって何?
名前はよく聞きますが、そもそもTPPって何なのでしょうか?
TPPとは、環太平洋パートナーシップ協定という名前の略称なのですが、名前だけを聞いてもよく分からないですよね。
分かりやすくいうと、TPPとは、日本やアメリカ、オーストラリアなど、太平洋の国々の間で決めた、貿易についての決め事のことです。
どんな決め事なのかと言うと、TPPに参加する国々の間で、貿易にかかる税金を無くして、お互いの国のものが安く買えるようにしましょう、という決め事です。
実は現在は、下のイラストのように、外国が日本へ農産物を輸出しようとすると、日本で税金がかかるようになっています。(この税金を関税といいます。)
例えば、アメリカが日本に米を輸出するとします。
すると1kg当たり341円の関税が取られます。
こうなると、取られる関税の分アメリカの米は高くなってしまいます。
わざわざ高いお金を出して、アメリカのお米を買う人はあまりいないので、日本でアメリカの米は売れなくなります。
このおかげで、日本の米農家さんは海外の米農家さんと競う必要はありません。
米以外でも、例えばみかんや葡萄など多くの農産物で(取られる税金の金額は違いますが)関税がかかって、外国の農産物が売りにくくなっています。
このような事をどの国もやっていて、自分の国の産業(上の例では米農家さん)を守っているのです。
TPPは、この外国の農産物にかかっている税金を無くそう、という決め事なのです。
つまり、TPPが実施されれば、外国の農産物、例えばアメリカのオレンジが、日本国内で今までよりも安く販売される、という事になります。
なぜTPPを進めようとするのか
ここまで聞いただけでは、「TPPによって、外国の農産物が安く日本に入ってくるなんて、とんでもない話じゃないか!」と思うかもしれません。
確かにそうなのですが、ではなぜ国はTPPを進めようとしているのでしょうか?
それはもちろん、日本にとってメリットもあるからです。
TPPでは農産物だけでなく、日本の得意な自動車など工業製品の関税も無くなります。
ですから日本の自動車などを海外に輸出しやすくなります。
この為、農業では海外の農産物が安く入ってくるなどの問題があるものの、工業製品の輸出が増えるので、国全体でトータルすると、メリットがあると考えられているのです。
その為、国は一生懸命TPPを進めようとしているのです。
2.TPPが農業に与える影響
TPPについて説明してきましたが、やはり農家さんが気になるのは、TPPが農業にどこまで影響を与えるのか、という事だと思います。
巷では「TPPが始まってしまったら、日本の農業は壊滅する」というような意見さえあります。
TPPが農業に与える影響について、農ログの意見としては、
世間で言われる、農業壊滅までの影響はない。
しかしあまり大きくは無いものの、農産物価格下落などの悪影響はある。
少し中途半端ですが、これが農ログの意見です。
この理由を以下に示します。
農業壊滅までの影響はない
実は日本の農産物は、関税でガチガチに守られているのかというと、そんな事はありません。
米などの一部の農産物の関税が極端に高いだけで、農産物全体を平均すると、関税は価格の10%~20%程度なのです。
(農林水産省の資料参照)
この10%~20%が高いか安いかですが、例えば野菜類は、ほとんどが現在3%の関税です。
今より輸入野菜の値段が3%下がったからといって、みんなが海外の野菜を買うでしょうか?
おそらくそうはなりませんよね。
日本の農産物の7割以上は、現在既に関税20%以下です。
TPPで関税が無くなったからといって、壊滅するような事はないでしょう。
また、現在関税が高い農産物については、関税の維持や、補助金などで国が守る事を決定しています。
そこまで大きくは無いが、農産物価格下落などの悪影響はある
ここまで、TPPでも農業は壊滅しないと書いてきました。
しかし、今までよりも10~20%程安い、海外の野菜・果物が日本に入ってくることは事実です。
その為、農業が壊滅するほどではないでしょうが、農産物価格下落などの悪影響はあると思います。
農林水産省の試算でも、農林水産物の生産額はTPPの結果、全体で年間1300億円から2100億円減少すると考えられています。
これら2つの理由から、農ログとしては上記のような結論となりました。
TPPを、過度に悲観し過ぎる必要は無いと思います。
しかし、多少なりとも悪影響があるのは間違いないので、それに向けた対策は進める必要があるでしょう。
3.TPPの影響が大きそうな農産物
悲観するほどの影響はないとはいえ、関税が無くなる事で海外の農産物の値段は下がります。
ここでは、関税の引き下げ幅が比較的大きく、TPPの影響が大きそうな農産物をいくつか挙げます。
農産物 | 関税引き下げ幅 |
---|---|
落花生 | 10%⇒0 |
柑橘類(オレンジ) | 6月から11月 16%⇒0 12月から5月 32%⇒0 |
りんご | 17%⇒0 |
さくらんぼ | 8.5%⇒0 |
ぶどう | 3月から10月 17%⇒0 11月から2月 7.8%⇒0 |
パインアップル | 17%⇒0 |
茶 | 17%⇒0 |
注)関税引き下げ幅は最終的な引き下げ幅を記入しています。時間をかけて段階的に引き下げられるものもある為、TPP開始後すぐにこの引き下げ幅になるわけではありません。
ここでは、代表的なものを挙げただけなので、詳しく知りたい人は、農林水産省の資料を見てみてください。
4.TPPに対して、農家さんがとるべき対策
それではTPPに対して、農家さんはどのような対策を取るべきでしょうか?
以下に2つの案を記します。
- 農産物の品質の良さで勝負する
- 価格以外を見てくれる販路を開拓する
1.農産物の品質の良さで勝負する
日本の消費者は品質を重視します。
外国産の野菜や果物が、TPPで数%安くなった程度であれば、現在と同じく、品質を重視する人は国産の農産物を購入するでしょう。
逆に、価格勝負になると、少しであれ外国産農産物が安くなれば、その分苦しくなります。
日本産の農産物の良さは、やはり安全性や味の良さといった、品質面です。
その品質の良さで外国産農産物と勝負すれば、今より外国産が数%安くなる程度であれば、十分戦えると思います。
2.価格以外を見てくれる販路を開拓する
価格以外のポイントが重要になる、下記のような販路は、TPPの影響は非常に小さいと思います。
- 百貨店
- 高級スーパー
- ネット販売
- 自己ブランドでの直売所販売
このような販路は、値段よりも、品質や安心、農家さんのこだわりを重視します。
TPPが始まったからといって、売上が変わることは考えにくいでしょう。
農家さんが作る全量を、これらの販路だけで捌くのは難しいかもしれません。
しかし、このような販路を一部だけでも持っておけば、TPPが始まったとしても、安定した売上が見込めます。
まとめ
最後に、TPPと、農業への影響について簡単にまとめます。
TPPとは、日本やアメリカ等の太平洋の国々で、お互いの貿易の時にかかる税金を無くす、という決まりごとです。
TPPが実施されれば、外国の農産物が、日本国内で今までよりも安く販売される、という事になります。
農業への影響としては、
世間で言われる、農業壊滅までの影響はない。
しかしあまり大きくは無いものの、農産物価格下落などの悪影響はある。
という事が考えられます。
農家さんは、TPPを過度に悲観する必要はありませんが、それに向けた品質向上や、販路の検討などはしておく方が良いと思います。
それでは、次回はトランプ大統領就任後のTPPの状況と、今後の予測について解説します。