有機栽培は、無農薬で化学肥料を使わずに作物を育てることですよね。
この有機栽培について、国が定めた規格があります。
そう、、、「有機JAS規格」です。
聞いたことのある人は多いと思いますが、詳しく知っている人は意外と少ないのではないでしょうか?
そこで今回は、有機JASの入門として、基本部分を分かりやすく解説したいと思います。
さらに、認定のとり方や費用、表示ルールについてもカンタンに紹介するので、有機JASが気になっている農家さんはぜひ参考にしてください。
JAS規格とは
有機JAS規格について理解するには、「JAS法」について知っておいたほうがいいので、まずはそこから説明します。
というのも、JAS法によって “JAS規格のしくみ” が定められていて、そのうちの一つが有機JAS規格だからです。
こういわれても、ピンときませんよね。
これから分かりやすく説明していきます。
JAS法
JAS法がどんな法律か、カンタンに説明すると、
生鮮食品や加工食品の品質について、国が一定の規格(JAS規格)を定め、それに適合した商品に「JASマーク」を表示できる、という法律です。
「JAS規格」の制度や、表示ルールについては、全てJAS法で定められています。
(原文はこちら→「JAS法(農林物資の規格化等に関する法律)」)
JAS法は昭和25年に誕生し、その後、何度か改正され、平成11年の改正で、有機JAS規格が新しく加わることになりました。
JAS規格と、JASマーク
生鮮食品や加工食品の品質について国が定めた規格がJAS規格です。
しかし食品といっても、カップめん、しょうゆ、野菜、ソーセージ・・・・など、たくさんの種類(品目)があるので、JAS規格の種類もたくさんあります。
平成27年の6月時点で、62品目について201規格が定められています。
(参考:JAS協会「JAS規格制度」)
このなかで有機農産物などに対するJAS規格を「有機JAS規格」と呼んでいます。
そしてJASマークですが、次のような種類があります。
この中で左下の緑色のマークが「有機JASマーク」です。
「有機JAS規格」に適合した農産物には、もちろん「有機JASマーク」を表示します。
ここまでの説明で、「JAS法」「JAS規格」「JASマーク」の意味と関係は、だいたい分かってもらえたでしょうか?
次は、本題である「有機JAS規格」について、詳しく説明していきましょう。
有機JAS規格について
有機JAS規格は、品目によって次の4種類の規格に分けられます。
品目 | 名称 |
農産物 | 有機農産物のJAS規格 |
加工食品 | 有機加工食品のJAS規格 |
畜産物 | 有機畜産物のJAS規格 |
飼料 | 有機飼料のJAS規格 |
これらは文字通り、「農産物」「加工食品」「畜産物」「飼料」についての「有機JAS規格」です。
どれも生産方法についての基準が書かれています。
ここでは、4つの規格のなかで認定を受けている農家さんの数が最も多い、「有機農産物のJAS規格」について紹介します。
有機農産物のJAS規格
有機農産物のJAS規格には、有機栽培の方法についての基準が書かれています。
原文はこちらです→「有機農産物のJAS規格(日本農林規格)」
長いので、カンタンにまとめると、
- 播種・植付け前2年以上および栽培中に(多年生作物の場合は収穫前3年以上)、原則として化学的肥料および農薬は使用しない
- 遺伝子組み換え種苗は使用しない
と、このような感じです。
「隣接地から農薬が飛散しないように」とか、「マルチシートは使用後きちんと取り除く」といった内容も書かれています。
一般にイメージする有機栽培の方法を、少しだけ厳格にした感じではないでしょうか。
ただし、原文を読めば分かるのですが、一部の農薬については使用が認められています。
ちょっと意外かもしれませんね。
有機JASマークが表示された農産物だからといって、必ずしも無農薬とは限らないのです・・・
有機JAS規格のしくみ
さてここからは、有機JAS規格がどのようなしくみになっているのか説明します。
生産した農産物に有機JASマークを表示するためには、まず「登録認定機関」から認定を受けないといけません。
認定を受けた農家さんを「認定事業者」といいます。
この認定事業者になれば、有機JASマークを表示できるようになります。
また、認定事業者は自分のつくった農産物が、ちゃんと有機JAS規格に適合して栽培されたかどうか自分自身でチェックします。
このことを「格付け」といいます。
自分で栽培したものを自分で判定するなんて、へんな感じもしますが、有機JASの制度はそのようになっています。
以上が、有機JASのしくみです。
だいたい分かったでしょうか?
次に、よく出てくる用語を少しだけ解説しておきます。
認定を受けようと考えている農家さんは、予備知識として参考にしてください。
登録認定機関
さっき説明したように、農家さんを審査して、認定事業者に認定するのが「登録認定機関」です。
登録認定機関は、農林水産大臣から認可を受けた組織で、国内に60機関くらいあります。
なお、登録認定機関によって、認定を受けられる品目や地域が異なります。
詳しくはこちらで確認してください。(有機登録認定機関一覧)
認定事業者
実は、認定事業者には3つの種類があります。それは、
- 生産行程管理者
- 小分け業者
- 輸入業者
この3つです。
「生産工程管理者」とは、農産物をつくる人です。農家さんのことですね。
農家さんが有機JAS認定をとる場合は、この「生産工程管理者」として認定を受けます。
じゃあ、他の「小分け業者」とか「輸入業者」は何かというと、生産者ではないけど、有機JASマークを貼ることがある業種の人です。
例えば、スーパーなどの小売店が、ダンボールで入荷した有機野菜を小分けして、それぞれの袋に有機JASマークを貼る場合、「小分け業者」の有機JAS認定を取得する必要があります。
このように、農家さんと関係ない業種にも、有機JAS認定はあるので、覚えておくといいと思います。
生産工程管理者について
少し踏み込んだ内容になりますが、生産工程管理者は個人だけとは限りません。
生産グループなどの組織がなることもできます。
例)ある地域の有機栽培団体(◯◯野菜クラブ)が認定を受ける場合
→『生産工程管理者=◯◯野菜クラブ』となります。
この場合、◯◯野菜クラブに参加している農家さんを、「生産工程管理担当者」と呼びます。
ややこしいのですが、
- 生産工程管理者・・・・・・認定を受ける事業者(個人もしくはグループ)
- 生産工程管理担当者・・・・栽培する人
- 生産工程管理責任者・・・・生産工程管理担当者の代表
このような意味の違いがあります。
先ほどの例だと
- 生産工程管理者・・・・・・◯◯野菜クラブ
- 生産工程管理担当者・・・・鈴木、山田、佐藤
- 生産工程管理責任者・・・・鈴木
こんな感じになります。
ここを理解しておくと、有機JAS認定をとるときに、スムーズにいくと思います。
有機JAS認定の取得
ここまでは有機JAS規格について基本的なところを話してきました。
ここからは少し具体的に、有機JAS認定を取得するときの手順や費用について説明しましょう。
細かい手続きは登録認定機関によって異なるので、大まかな流れを説明しておきます。
有機JAS認定を取得する手順
有機JAS認定をとる前準備として、まず最初に有機JASの講習会(認定機関が指定)を受ける必要があります。
それから認定の申請をします。
手順は、
登録認定機関に申請書を出す
↓
申請書の書類審査
↓
実地検査
↓
判定
↓
認定証の交付
このような流れになっています。
書類の審査だけでなく、現地での検査もある点に注意しましょう。
もっと詳しく知りたい人は、こちらの「JAS規格の認定取得ガイド」が分かりやすくておすすめです。
有機JAS認定の費用
審査には費用がかかり、農家さんが全額払わないといけません。
「申請手数料」と「検査手数料」が必要で、金額は登録認定機関ごとに異なります。
だいたいの目安ですが、
- 申請手数料・・・・3万円
- 検査手数料・・・・2万円
といったところでしょうか。
ただし、これと別に検査員の交通費がかかる場合もあります。
(参考例:「一般社団法人オーガニック認証センター」の手数料)
検査員が新幹線や飛行機で来るとなると、かなりの金額を負担しないといけません。
なるべく近くの登録認定機関で申請することをおすすめします。
有機JAS認定の取得後について
「認定事業者になれば、あとは野菜をつくるだけだ!」と思うかもしれませんが、そうもいきません。
認定に合格したあとも、いろいろとやることがあるのです。
まず、毎年一回、登録認定機関による調査があります。
これは、基準に適合した生産をきちんと続けているかチェックするための現地調査です。
もし、重大な不適合がみつかると、認定が取り消されることもあります。
他にも、下記のような報告書を、毎年、登録認定機関に提出しないといけません。
- 年次生産計画
- 栽培記録
- 格付(有機JAS規格に適合しているかの判定)の実績
こうしてみると、認定後もけっこう手間と費用がかかりそうです。
そのへんも考えて、有機JAS認定をとるか検討したほうがいいかもしれませんね。
有機JASの表示ルール
最後に、有機JASの表示ルールについて説明しましょう。
もう一度くり返しますが、「有機JASマーク」を商品に表示できるのは、認定事業者だけです。
これは分かると思いますが、他にも表示ルールがいくつかあります。
「無農薬」の表示はダメ
有機JASマークの付いた農産物であっても、「無農薬◯◯」といった表示をしてはいけません。
上でも述べていますが、有機JASでは一部の農薬は使用が認められているので、有機JAS=農薬ゼロとは限りません。
紛らわしい表示を避けるため、「無農薬◯◯」とか「減農薬◯◯」といった表示は禁止されています。
有機農産物のJAS規格では、下記のような表示だけと決められています。
うっかりルールを破らないよう気を付けましょう。
有機JAS認定を取らないと、「有機」と表示できない
ここからは、一般の農家さんにも関係するルールを説明します。
これはとても重要なポイントなのですが、有機JAS認定を取った農家さんでなければ、
- 有機◯◯
- オーガニック◯◯
といった表示をしてはいけない決まりになっています。
「えー!?」と思ったかもしれません。
でも、たとえ無農薬・無化学肥料で栽培した農産物であっても、有機JAS認定をとらないかぎり、「有機」という表示は使えないのです。
(※後述しますが、実はホームページ等では有機という表示は使えます。)
消費者にとっては分かりやすいかもしれませんが、農家さんには厳しいルールです。
ただし、これはすべてに適用されるわけではありません。
このルールが適用されるのは、「有機農産物」と「有機農産物加工食品」だけで、それ以外の「有機畜産物」やその加工品については、認定事業者でなくても「有機」の名称を使えます。
ここらへんの表示ルールは、JAS法の中で、「指定農林物資」として規制されています。(参考:「指定農林物資について」)
少し複雑だったかもしれませんが、しっかり覚えてください。
広告やパンフレットに表示するのはOK
実は、JAS法の規制対象となるのは、農産物やその包装、容器だけです。
つまり、商品を説明するパンフレット・チラシ広告・インターネット上での表示については、規制の対象にならないということです。
例えば、有機栽培をしているけど、有機JASは取得していない農家さんがネット販売をする場合、
- ホームページに「有機野菜をつくっています!」と書く
- 野菜の写真に「有機◯◯」と記載する
これらのことは可能なんです。
(※ただし商品を送るダンボール箱や、送り状に「有機」と書くことはできないので、注意してください。)
有機JAS認定をとっていない農家さんでも、(有機栽培を行っているのであれば)ホームページなどを使って、有機栽培した野菜や果物をアピールすることができます。
表示ルールを守らなかったときの罰則
表示ルールを守らなかったときは、まず国から警告がきます。
それでも指示に従わない場合、
- 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
- 法人については1億円以下の罰金
このような罰則が課されます。かなり厳しいペナルティですね。
表示ルールはちゃんと守るようにしましょう。
まとめ
今回は、有機JAS規格について説明してきました。
有機JASマークを付けることができれば、取引で有利になったり、信用が上がったりと、様々なメリットがありそうですね。
ただし、注意しておきたいのですが、有機JASマークのついた商品だからといって、必ず売れるとは限らないと思います。
例えば、安売りスーパーなどでは、有機JASマークのついた野菜は置いてません。その店で買うお客には、値段が高い有機野菜の需要があまりないからです。
もちろん「値段が高くても、安全な野菜が欲しい」という消費者は全国にたくさんいます。
そういう人たちへの販路を確保することも大切です。
もし販売の見込みがあるなら、ぜひ有機JAS認定にチャレンジしてください。
そのときこの記事が役に立てば幸いです。