以前の記事「農作物をサルやイノシシから守る、鳥獣害対策を基本から解説」で、基本的な鳥獣害対策について、農ログが調べたことを紹介しました。
その対策は次のような内容でしたね。
- 集落内のエサとなるものを減らす
- 動物のかくれ場所を減らす
- 地域一体となって行う
- 柵で侵入を防ぐ
- 動物を捕獲する
今回は、そのなかで4番目の「柵で侵入を防ぐ」について、さらに詳しく調べたので、紹介します。
防護柵は正しく設置しないと、動物に侵入されてしまうので、きちんと設置して野菜や果物を守りましょう。
防護柵の基本
防護柵には次のようなものがよく使われます。
- 金網柵(ワイヤーメッシュ柵)
- トタン
- ネット
- 電気柵
まずは、どの柵にも共通する基本的なポイントから説明しましょう。
柵のぎりぎりに農作物を植えない
柵と農作物の間は3mくらいスペースをあけましょう。
もし柵のギリギリに野菜や稲を植えていると、はみだした実を動物たちに食べられます。
このとき、実といっしょに柵をかじられて、柵が壊れる原因に。
また、柵のすぐ内側の届きそうなところに野菜があってもいけません。
しつこいイノシシはどうにかしてそれを食べようと、柵を噛んだり、グイグイ押したりします。
始めは小さな傷でも、繰り返されるうち、そこから突破されてしまうことに。
柵と野菜の間には、距離をあけるのが基本です。
外から野菜が見えないようにする
動物は案外、目で見てエサを探しています。
例えば大好物のスイカやカボチャが見えると、柵を押したり引いたりして、強引に侵入しようとします。
そこで、高さ 60cm くらいの「遮光ネット」や「トタン」を使って、視界をふさいでしまいましょう。
農作物を障害物で隠してしまえば、動物もわざわざ侵入しようと思いません。
動物の嫌いなトウガラシやシソ、コンニャクなどを柵のすぐ内側に植えて、中の野菜が見えないようにするのも効果的です。
柵はきちんと管理する
柵は設置したあとも、きちんと管理を行うことが大切です。
- ぐらぐらする部分はないか
- 溶接がはがされた個所はないか
- ネットを噛み切られていないか
定期的にチェックを行い、破損したところがあれば、すぐに補修しましょう。
動物は毎日こっそりきて、柵を観察しています。そして弱そうな部分をみつけ、そこをどんどん広げようとします。
せっかく設置した柵も、放置しっぱなしでは、いつか侵入されてしまいます!
以上、防護柵の基本について、ひととおり説明しました。ポイントは分かりましたか?
ここからは、代表的な防護柵である「金網柵」と「電気柵」について、詳しい使い方を紹介します。
1.金網柵(ワイヤーメッシュ柵)の使い方
金網柵の格子は、長方形よりも正方形がおすすめ。
動物は同じ面積の穴だと、長方形のほうが通り抜けやすいからです。
イノシシ対策であれば 10cm ×10cm のサイズがいいでしょう。
(15cm ×15cm だと、イノシシの子供に通り抜けられてしまうし、小さい格子の方が侵入をあきらめやすいという傾向もあります。)
金網の太さは、3.2mm、5mm、6mm とありますが、重量や値段に応じて、自分が使いやすいのを選べばよいと思います。
径が細いものは軽くて使いやすい反面、全体の強度は下がるので、支柱がたくさん必要になることも考慮して決めましょう。
金網柵の高さ
柵の高さは、イノシシなら 1m くらいで十分な場合が多いです。
イノシシは本気をだせば、高さ1m の障害物でもジャンプできるのですが、それは、自分の身に危険がせまったときだけ。
エサを探すときは、めったにジャンプしません。
もし着地に失敗し、足をケガしてしまったら、野生動物にとっては死活問題になるからです。
設置するときの注意点
金網柵を設置するとき、一番気を付けるのは地面との隙間です。
動物はジャンプするより、障害物の下をくぐって侵入しようとします。
少しでも隙間があいていれば、鼻を突っ込んでグイグイと押し広げられ、最後には無理やりくぐって侵入されることに。
対策として、柵が地面と接する部分を、金属パイプや竹で補強するのがおすすめです。
また、柵と柵の連結部にも隙間ができないように注意しましょう。
2.電気柵の使い方
市販の電気柵は、ワイヤーに電流がおよそ1秒おきにピッピッと流れる仕組みになっています。
なので人が誤って触っても、命に関わるほどの危険はありません。
乾電池やバッテリー、ソーラーパネル式などいろいろあるので、屋外での設置もカンタン。
値段も手ごろで、長さ 100m~500m の電気柵が数万円で売ってます。
電気柵に関する法律・資格など
設置に必要な資格ですが、市販の電気柵なら誰でも設置することが出来ます。
(日本電気さく協議会、資料1、資料2)
ただし、電気柵を自作して100Vの電源から直接つないだりするのは法律違反です。
市販されている安全なものを使いましょう。
実際に設置するときですが、「危険」と分かる表示をするきまりになっています。
とくに子供がうっかり触ってしまうとたいへん!命に関わらないとはいえ、電気柵は危険であるということを忘れないでください。
電気柵に必要なもの
電気柵の設置に必要なものをまとめました。
電源装置 | 電気パルスを発生させる装置 |
(漏電遮断器) | 30[v]以上の電源を使う場合には必要 |
ワイヤー | 繊維のヒモに金属線がよってある |
支柱 | 電気を通さない素材を使う |
ガイシ | ワイヤーを支柱に固定する部品 |
危険表示パネル | 適度な間隔で表示 |
これらはセットでも売っています。
あと、ワイヤーの電圧を測る専用テスターも買っておいたほうがいいです。
アース棒を地面にあてて測るタイプがおすすめです。(3~5千円くらい)
電気ワイヤーの高さ
イノシシの皮膚は頑丈な毛におおわれているので、電気ワイヤーが触れてもあまり効きません。
電気ショックがもっとも効くのは、ワイヤーが鼻に触れたときです。
そのため、ワイヤーを設置するときは、イノシシの鼻に触れやすいよう、地面から 20cm と 40cm の高さにするのがベストです。
二段だと心配な人は、60cm の位置にもう1本張ってください。
アースが重要
電気柵は、電流がイノシシの鼻さきから入って、足から地面に流れることで、電気ショックを与えます。
なので電気柵のすぐ下がコンクリートやアスファルトだと、電気が流れにくく、あまり効果がありません。
地面が砂地や乾燥していても、電気は流れにくくなります。
ワイヤーと地面の通電状態を、テスターを使って確認しましょう。
除草はしっかりとやる
電気柵に草があたると、そこから地面に漏電します。
刈払機で刈るか、除草剤をまいてしっかり除草しましょう。
「うちは有機栽培だから、除草剤はまけないよ」という場合は、柵の下に通電性のマルチを被せるのがおすすめ。
マルチの幅が 50cm くらいまでなら、イノシシの後ろ足が土に着くと思うので、マルチの通電性は気にしなくても大丈夫でしょう。
電気はずっと流しておく
省電力のため夜だけ電気を流すタイプもありますが、現在は24時間ずっと流しておくのが主流です。
夕暮れや早朝の時間帯でも動物はやってくるし、人里に慣れたイノシシは昼間でも侵入してきます。
それと、冬は使わないからといって、電気柵の電気だけを切っておくのも、よくありません。電気が流れていない状態の柵に慣れてしまい、ワイヤーのくぐり方を学習されても困ります。
収穫後の田畑には、エサとなる「残渣」や「ひこばえ」もあるので、電気柵は常に稼働させておくべきです。
他の柵との組み合わせ
正しく使えば効果抜群の電気柵ですが、侵入を防ぎきれないこともあります。
電気ショックを受けたイノシシがびっくりして前方に飛び出した場合や、電気ショックを受けても侵入してくるタフなイノシシの場合です。
そんなときは、電気柵の内側に「ワイヤーメッシュ」や「トタン」を設置して、防護柵を二重にすれば効果的。
物理的に侵入しにくくなるし、イノシシもあきらめやすくなります。
まとめ
今回の記事では、防護柵を使うときの大切なポイントを紹介しました。
まちがった使い方をすると、被害が深刻化することもあるので、正しく運用しましょう。
なにより、防護柵だけに頼ったのでは、あまり効果を期待できません。
まずは、動物が集落に近づきにくい環境をつくることが大切です。
正しい鳥獣害対策を行って、大事な野菜や果物を守りましょう!
前回の記事「農作物をサルやイノシシから守る、鳥獣害対策を基本から解説」と合わせて、2回にわたって鳥獣害対策について紹介してきました。
農ログの専門分野であるネット販売とは違った分野である為、知識不足の部分もあったかもしれません。
「もっといい方法があるよ!」という農家さんがいれば、ぜひ教えていただければ助かります!