日本で栽培された野菜や果物が、海外に輸出されて人気だというニュースをよく見ます。
アジアでは富裕層が増え、安全で高品質な日本の農産物が、高い値段で売られているそうです。
そんな話を聞くと、農産物の輸出は、とても魅力的に思えますよね。
個人農家さんにとって、海外は新しい販路になるのでしょうか?
農産物の輸出の現状から実際の輸出ルートまで、くわしく調べてみました。
農産物の輸出状況
まずは、近年の農産物の輸出状況がどうなっているのか、調べてみました。
次のグラフは、日本から輸出された「農林水産物」の輸出額の推移です。
(農林水産省「農林水産物・食品の輸出の現状」から抜粋)
2013年あたりから、大きく増え始めていますね。
2015年の、「農産物」「林産物」「水産物」をあわせた輸出額は7,452億円にもなっています。
「農産物」だけでも4,432億円ですから、けっこう多いですね。
ただし、この額には加工食品も入っているので、生の「野菜」「果物」「米」の輸出額はこれより少ないです。
次に、輸出の内訳をみてみましょう。
(農林水産省「農林水産物・食品の輸出の現状」から抜粋)
内訳は、「水産物」と「加工食品」の割合が多いです。
気になる「青果物」や「コメ・コメ加工品」は、割合は小さいですが、それでも200億円を超えています。
「牛肉」や「緑茶」なんかも、けっこう輸出されてますね。
続いて、どの国への輸出が多いのかも、みてみましょう。
(農林水産省「農林水産物・食品の輸出の現状」から抜粋)
輸出額の多い順番は、
- 香港
- アメリカ
- 台湾
- 中国
このようになっています。やはり、アジアが多いですね。
日本からの輸出が増えている理由としては、
- 海外で日本食がブームになっている
- 政府が農産物の輸出に力を入れている
このあたりが考えられるのではないでしょうか。
売上規模が大きく、現在も輸出が増えていることを考えると、農産物の輸出には、大きなチャンスがありそうです。
では実際に、農産物はどのように輸出されているのでしょう?
それについても調べてみました。
農産物の輸出の流れ
農産物は、だいたい下図のような流れで輸出されます。
国内の流通と大きく違うのは、「検疫」と「通関」がある点です。
それぞれについて、簡単に説明しておきましょう。
検疫
検疫とは、国外から害虫や病原菌が入って来ないように、港や空港で行われる検査のことです。
農産物を輸出するときは、船や飛行機に積むまえに、まず一回、検疫を行う必要があります。
この検疫に合格すると、合格証明書が発行され、相手国に輸送することができます。
そして、相手国に到着してから、もう一度、検疫が行われます。
もしここで不合格だと、積荷は廃棄されるか、送り返されてしまいます。
通関
農産物に限らず、“もの”を日本から海外に運び出すときは、必ず「税関」を通さなければいけません。
税関を通すことを「通関」といいます。
通関には、申請書を提出したり、手数料を払ったりと、手続きが必要です。
そして、相手国に着いてからも同じように税関を通すのですが、このときに「関税」を払わないといけません。
日本は農産物に関税をかけて、国内の農業を守っていますが、他国も農産物に関税を設けているのです。
関税については、こちらの記事も参考になります。「TPPって何?農業に与える影響と農家さんが取るべき対策」
国内流通とは違い、色々な手続きがありますね。
やはり輸出をするとなると、それなりに手間がかかりそうです。
農産物の輸出ルートについて
色々と手間がかかりそうな農産物の輸出ですが、実際どのようなルートで輸出が行われているのでしょうか?
輸出ルートには、主に次の2つがあります。
- 間接輸出:商社や貿易会社を通じて行う
- 直接輸出:海外のバイヤーと契約し、検疫や通関などの手続きも、自分たちで行う
上記の「間接輸出」は、国内で専門業者と取引するだけなので、通常の国内取引と変わりません。
いっぽう「直接輸出」については、専門的な知識や言葉の問題がでてきます。
なので、「直接輸出」をする場合は、
- 貿易基礎セミナーに参加する
- 貿易に詳しいコンサルタントにアドバイスを受ける
- 輸出実務の担当者を決める
このような対応をとり、組織的な体制をつくって輸出が行われます。
私の調べた事例では、県やJAが主体となって「果物」や「野菜」の輸出を行っているケースが多かったです。
(福岡のイチゴ、青森のリンゴ、長野のレタス、北海道のナガイモ・・・など)
もしかしたら、みなさんが住んでいる地域の特産品も、海外で販売されているかもしれませんね。
現地での値段と評価
ここまで見たように、農産物の輸出には、けっこう手間と費用がかかっています。
輸送費などのコストも考えると、現地での販売価格はかなり高くなるのでは?と思いますよね。
そこで、現地での実態も調べてみました。
次のグラフは、中国(北京)のお店で売られているコメの値段です。
(ジェトロ「主要都市における市場価格調査(コメ)(2015年7月)」から参照)
これをみると、日本産のお米はかなり値段が高いですね。
日本のスーパーでも、普通のお米だと千円前後/2kgで売っています。高級ブランド米でも2~3千円/2kgくらいなので、それより高い値段です。
検疫や関税、流通費などのコストがかかるので、どうしても小売価格が上がってしまうのでしょう。
現地のお客様の評価も、「日本産は値段が高い」という感想が、いちばん多いようです。
もちろん「おいしい」「安全」といった評価もあります。なので、主な販売先は、
- ギフト用
- 正月などの特別な祝い向け
- 現地に滞在している日本人が買う
- 一部の日本料理店で使われる
このような用途が一般には多いようです。
海外でも、日本の農産物は高価格・高品質というイメージのようです。
やはりネット販売同様、農家さんのこだわりなど、高品質を活かしたアピールが重要になりそうです。
まとめ
農産物の輸出について、いろいろ調べてみましたが、どうでしたか?
わざわざ海外で売るくらいなら、日本国内で売ったほうがいいんじゃないか、と思われた農家さんもいるかもしれませんね。
たしかに、6次産業化や直販・インターネット販売のように、農家さんが国内で収益を増やすチャンスはいくらでもあります。
ただ、日本の人口は減少している状況ですし、農業全体の観点からみると、海外輸出は今後、より重要になってくるのではないでしょうか?
なにより、日本のおいしい農産物を海外の人にも食べてもらいたいですよね。
農ログも、いつか農産物の輸出に携われたらいいなと思いました。